横浜と下北。なつかしい、僕の居座ったところだ。

もう、何も残ってない、思い出の街。

初めてお茶して、ぎこちない会話を楽しんだ、喫茶店。

古ぼけた居酒屋。さもない古着店。

軒並みつられて、女の子と手を結んでみた。

初めて歩いた、歩道の横道だった。


それらとは、やがて打ってかわって。

潮風と丘の、本牧山手。

休日に、初めて車に出かけたところだ。

ちょっぴり、お洒落なデート気分だった。

まるでお菓子の国から生まれたような、

お店に、お菓子と玩具がいっぱい。

ああこれが、女の子の専売特許なんだって、思えたんだ。

そして帰りは、思いっきり一方通行を逆走した。

どたばた迷って、ようやく戻れて、

手作りTシャツを、お土産にプレゼントして。バイ、バイ!

なつかしい、思い出のひとときだった。

山の崖っぷちから、見渡す夜のネオンを向いて、

死んじゃった犬のお墓まで、月の下をふらついたんだ。


なんだかんだ、また場所も変わってしまって。

ついぞ気づいたら、やっぱり一人きりになってしまった。

みどりの土手っぷしに、なんとはなしに寝転んだり、

満開の花咲く中を、思いっきり歩いたりした。

なんの目的もないまま。

ひどく傷つきうらぶれた、雀のような僕の背中。

そっと手のひらを投げると、

投げ返してくれる人が、いるかい!

とても背中が熱かった。まるで緋文字のようだった。

気づいてみると、登る階段を下から押し上げてくれて。

「君はひょっとして、ロマンチストなんだね!」

さもないベレー帽の女の子が笑っていった。

彼女の横に、隠れたような筆を手に。

またお洒落なルドンの模写の上に。

もう肩越しに、詩集一篇。乗っけから、小さな花束を。

花と緑と、木陰のひとときかな?

流れる影を背景に、

蛙とおたまじゃくしならなんとか描いてみせるよ、といった。

でも蛍なら、やっぱりかけないだろうな。

すると見たこともないような顔で笑っていった。

「やっぱりあんたは、ロマンティストなんだ。やってみて!」

つられて笑っちゃった。

なんとはなしに、話に乗ってみただけ。

蛙の子は、蛙らしく。

一生懸命に、二人で描いてあげました。

二人の後ろから、

教会の12時の、時を鳴らす鐘が聞こえて参りました(笑。)

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