ぼくの出発点。

2004年7月4日 読書
ISBN:4002041271 単行本 井伏 鱒二 岩波書店 2000/11 ¥9,870 ドリトル先生は動物語が話せる。魚語も話せる。特別な能力には違いないが、かといって奇想天外かというとそうではない。先生はちゃんと動物たちから「学習」したのだから。最初は同居人(?)のオウムのポリネシアに手助けしてもらい、一語、また一語。誰にも横柄な態度はとらず、誰とも仲良しになり。かくして人間のお医者さまだった医学…。

傑作は、やっぱり、航海記かなあ?・・
でも、物語のそれぞれが、
心温まる創作なんだけど。ピピネラとかもね。
(ピピネラが「共犯者」に出てくるのは許せない。
殺人推理小説なんかと一緒にしないで欲しいんだけど。)

考えてみれば。
小さいころ、この本を読んで、
将来の夢を思ったのでした。

ちょっと一風変わっているけど、
ほかのみんなの知らないところで、
尊敬もされてて、楽しく朗らかな、
動物の仲間たちを連れて、不思議な冒険にでかける、
やさしいお医者さん。

(それまでは、パイロットなんかが
 かっこいいと思ったんだけど。)

本気で動物とお話しようと
動物園に行ってみたことも、ありました。
クジャクが羽を延ばして、ジャマするなと、
本気で怒ってかかってきましたのでした。
動物って凶暴なんだな、と。
改めて現実との違いを知ったのでしたが。

「秘密の湖」って、ちょっと異色作品ですね。
童話作品の主人公が、
めずらしく元気なく、いろいろ考えてふさぎ込んでいる。
世界大戦が陰を下ろし、大戦を予感させる、重苦しい雰囲気に、
また暗い時代の渦のさなか、童話作中の先生が、
作者とともに時代精神に押しつぶされて、
生きる希望に困難を抱えていたのです。
童話の世界で、子供たちに夢と希望を与える役割を考えると
大人たちの、醜い争いや、
現実社会の矛盾を反映させ、問題提唱させたのは
少々政治的で、重苦しいきらいもありますが。

それでも、テーマがリアルでシビアな分、
聖書に引用される、美しい創世の物語は、
人間本来の清く美しい生き方に触れて、
心に迫り響くものがある。

特に、Sinpleな挿絵に描かれる、
古の古都が湖から再び姿を現す場面は、
ドビュッシーの「沈める寺」なんかを彷彿とさせます。

結局、なんだかんだいって、
過去、原始や神話、おとぎ話の世界の復帰のもくろみは、
ノスタルジックな過去の世界を想起させることで
人間のルーツ、普遍的な心への回帰といった、
心の浄化作用に至るように思います。
そこで現実生活の反省を踏まえ、一歩前を見出す。
トールキンなんかも、そういった世界に近いと思えます。

こどものころのあこがれは
もう半分以上も色あせちゃって、
今は別の夢にとって代わられることもありますけど。

・・もう一度はじめの初心を振り返って、
当直の仕事のあいまに、
ちょっと昔を振り返って
書いてみたのでした。

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